#3 和歌山の魅力を伝える人 寺本 東吾氏

和歌山の魅力を伝える人

カメラハードエンジニア&セミプロカメラマン 寺本 東吾(てらもととうご)氏

~プロフィール~
・和歌山市出身
・昭和50年(1975年)ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)に入社
一眼レフカメラを初めとする映像関連機器の開発に35年関わる
・平成22年 退職後NPO法人 市民の力わかやまに勤務、現在に至る
・平成24年4月より、和歌山大学学生自主創造科学センター 客員教授

○NPO法人「市民の力わかやま」で活動されるに至った経緯を教えてください。

学生時代からカメラが好きで、旅行に出かけてはよく写真を撮影していました。その関係でカメラの仕事をしたいと思い、創業者が海南市出身のミノルタカメラに就職しました。職場は大阪の堺市にありましたが、自然が豊かな和歌山を離れられず、ずっと和歌山市から通っていました。

海がこよなく好きで、週末にはいつも和歌浦湾にクルーザーを浮かべて、セーリングのレースを楽しみました。そのうち、せっかくレースに出るんだったらと、レースの様子をカメラで撮影するようになりました。平成15年に世界的なヨットマン、ラッセルクーツを和歌浦に招待したレースイベントでは、私の写真がポスターに採用されました。和歌浦は非常に水がきれいで、風光明媚。海から見ると、本当に良く分かります。
ラッセルクーツのレースイベントのポスター写真(和歌浦湾)

平成22年、市民の力わかやまが、「景観まちづくりポータルサイト構築事業」を開始、スタッフを募集していましたので、趣味を生かせると思い応募してから今まで、この事業に関わっています。まさしく天恵だと感じています。

○NPOとして、どのようなことをされているのでしょうか。

NPO法人市民の力わかやまは、和歌山県から仕事を受けて、和歌山県の優れた景観を広く県内外に発信・紹介するサイト「きのくに風景讃歌」を立ち上げました。

紀南については、すでに平成18年頃に「日本風景街道 熊野」HPを立ち上げていましたので、そのコンテンツを合わせて実に1,500件を超える、後世に伝えていきたいみどころを掲載しました。

また、県内各地で地域づくりに活躍されている方々との連携を深めようと、サイトのトップページに団体のブログへのリンクを並べていますので、リアルタイムで各地の活動の様子が伝わってきます。横の連携をとるというのはなかなか難しいことなので、お互いの情報を交換しましょうということで始めました。

「きのくに風景賛歌」HP(http://www.kinokuni-sanka.jp/)

ここ数年、景観に関する様々な条例が制定されていく中で、景観に関する市民の関心が高くなってきています。市民の方々への景観についての情報をインターネットで提供しつつ、景観を活かした地域づくりやまちおこしの姿を伝えるように「景観・まちづくり新聞」も発行しています。今回で、15号になりました。新聞は和歌山市役所と「みんなの学校」、ビッグアイの一階で配布していますが、「きのくに風景讃歌」に掲載していますのでいつでもご覧になれます。

さらに、「お宝発見ウォーク」と称して、景観資源を自分たちの目で見直し再発見して、登録や保存に向けて意識を高め、まちづくりに活かしてもらおうということで、ウォークイベントを実施しています。これらの事業は、現在も市民の力わかやまの自主事業として継続しています。

 県内各地で地域づくりに活躍されている団体の活動ブログ

○一緒に活動されている仲間についてお聞かせください。

メンバーは、私の他には主に3人です。理事は、行政や各NPOとのコーディネーター役が主な仕事です。幅広い知識と人のネットワークでもって、わかやまのまちづくりに奔走されています。事務局長は創立当時からのメンバーで、優れたICT技術と知識を駆使して、たくさんの事業を推進している市民の力わかやまの中心となって活躍されています。他にも事務局の担当者や、地域情報を提供してくださる支援員の方々もいます。

また、県下全体の情報収集のためのネットワークとして、様々な団体の方々と連携し、協力いただいています。

○今までの活動の中で一番思い出深い出来事を教えてください。

 市民の力わかやまで仕事をするようになり初めて、「危機に瀕した」風景があることを知り、また景観を維持・改善するための活動を精力的にされているNPOが、和歌山市に多数あることを知りました。平成23年に第1回景観・まちづくり講座を和歌浦で開催したときに、和歌の浦地区の団体をお呼びして意見交換をしたのですが、大変有意義であったと思う一方で、今後も横の連携をとるような仕組みが必要ではないかと感じました。

例えば、「水軒の浜に松を植える会」というのがあります。実際に、私も現地に行きました。松林がずっとのびていたような記憶があるのですが、行ってみると、松がほとんどないんですね。特に南の方は、松林が姿を消している。そこに松林を復活させようと、松の苗木を植えている団体です。そういうのを見まして、NPOの活動というのは、大変素晴らしいなと思いました。植えるとなると人手がかかりますので、地元の中学校の協力を得ながら、地域ぐるみでやっておられるようです。

○好きなことや趣味は何ですか。

戦前から昭和30年代にかけての和歌の浦の絵ハガキを収集しています。きっかけは、子どものころに和歌浦へ行った記憶が忘れられず、それを絵葉書で確かめたいと思ったことです。
懐かしい風景が描かれた数々の絵はがき

 絵ハガキを見ると、当時は大変に観光客で賑わっていました。現在淋しくなってしまっている原因は、いろいろと説はあるようですが、ただ当時の絵葉書の写真と比べると、景観が変貌してしまったこともあるのではないかと思います。元の景観を想像できないほどに、その魅力を欠いてしまったと感じる場所もあります。従来の景観に対する視点は、対象物の周囲に対する配慮があまりなかったのですが、これからは、対象物を含む空間を守っていく姿勢が必要だと思います。

景観は大切な資源です。景観自身が持つ魅力に気が付いて、それを大切にしていくことが重要だと思います。防災やこれから進むであろう自然エネルギーの開発などの時代の波の中で、いかにバランスよく守っていくかを考えるのは、単に行政だけの問題ではなく、住民やNPO等が景観について学び、歴史的な視点を含めて価値を再認識する必要があると感じています。

和歌浦の魅力は、多くの方が述べられておられますが、私は、時空をさかのぼって古代の和歌山を考えると、より鮮明になると思います。和歌山県文化財センターが発行した「謎の古代豪族 紀氏-紀伊国がひかり輝いた時代」を読み、大変感動しました。

この時代、紀の川は大きく南へ蛇行して、和歌浦へ流れていました。今の和歌山市の中心付近には、「紀伊津」と呼ばれる港がありました。ここを拠点に活躍した「紀氏」は、はるか朝鮮半島まで交易に出かけたと考えられています。日本でたったひとつしか発見されていない金の勾玉や、日本に2例しか見つかっていない馬冑(ばちゅう)など、当時の勢力をしのばせるものが多く残されています。

和歌浦の風景をこうした歴史を背景に見ていくと、ただの一地方ではなく、日本の歴史のあけぼのの時代にひかり輝いた地域として浮かび上がってきます。後に万葉時代に和歌浦の風光が、都に住む多くの貴族にもてはやされたのですが、これは、そうした経緯があったからではないかというのが、私が和歌浦に対して感じているロマンです。

歴史的な視点を加えて見ることで、風景の価値は厚みを増します。そうしたことが読み取れるデータベースに「きのくに風景讃歌」をしていきたいと願っています。
不老橋から臨む市町川

○今後の取り組みの展望を教えてください。

「きのくに風景讃歌」には、ほかにも大切なページ「ふるさとフォトグラファー」があります。和歌山の魅力的な景観を撮影した写真を、投稿して頂き公開するサイトです。

すでに、大勢の方がふるさとフォトグラファーとして登録され、毎日写真が投稿されてきます。町並みや自然景観は次々と変貌していくものなので、現在の和歌山市の様々な景色をアーカイブとして整理・記録し、今後様々な場面で活用できるようにしていく作業をしていきたいと考えています。

もうひとつの取り組みは、今後急速に普及するであろうスマートフォンに対応し、自宅や事務所だけではなく、実際に現地で情報ナビゲーションとして「きのくに風景讃歌」を活用できるようにしたいと考えています。そのための検討を始めたところです。現在の状況に応じて、適宜必要な情報のみを簡潔に表示するなど工夫が必要になってきます。

夕暮れの高津子山頂上付近の風景  

新和歌浦の蓬莱岩 

 ○お気に入りの場所や、まちの風景についてお聞かせください。

まずは、先ほど挙げた和歌浦ですね。それ以外では、布施屋から伊太祁曽へ抜ける熊野古道沿いの景色が気に入っています。沿道には各王子跡、和歌山城の本丸御殿の台所から移築した光恩寺の庫裏、美しい高積山、旧中筋家、弓の名人和佐大八郎の墓、四季の郷公園、足守神社、伊太祁曽神社などのみどころが至る所にあります。里山・田園風景も四季の彩りが豊かで、とても美しいと思います。

近くを走る和歌山電鉄のおもちゃ電車やイチゴ電車も、風景にとても良く溶け込んでいると思います。私にとって、歩くのが好きな場所です。

  田園景観の中を走る「たま電車」。守っていきたい里山の景観がひろがります。

 ○メッセージをお願いします。

 和歌山市では、もっと海の価値が見直されてもいいと思います。例えばニュージーランドのオークランドでは、数軒に一軒の割合でヨットを持っていて、海の魅力を満喫しています。阪神圏の近くにありながら、海岸美に恵まれ、水のきれいな和歌浦をもっと多くの方々に知って頂き、私たちも、もっと海に親しみましょう。

写真が好きな方、ふるさとフォトグラファーとして、和歌山の今を一緒に記録しませんか。是非お気に入りの写真を投稿してください。昔撮影した貴重な和歌山の風景やご家族の写真が、たんすの奥などに眠っていたら知らせてください。アーカイブのページでは、そんな「お宝写真」を募集中です。

また、景観づくり、まちづくりの活動をお知らせください。景観・まちづくり新聞に掲載させていただきます。

【あとがき】
誠実で紳士的な中にも、地域の景観の良さを後世に伝えていくという熱い想いを垣間見ることができました。また、脈々と続く和歌山の歴史ロマンを語る姿は輝いていました。どんどん新しいことにチャレンジしていくことは素晴らしいことで、和歌山のより多くの魅力を発見することに繋がると思います。